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金井工芸の月桃染め

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水戸の素晴らしいセレクトショップ「DressBird」とのコラボレーションで生まれた、オーガニックコットンのカットソー。コットンシフォンの繊細な美しさとやわらかさを色にも映し出したくて、今回は特別に、seedオリジナルカラーとして月桃で染めた淡いスモーキーなピンクをご用意しました。

 

淡いピンク色にしたい、と思いついたとき、頭に浮かんだのは奄美大島で天然染めを手がける金井工芸の金井志人さんでした。金井さんは、泥染めの美しさを教えてくれた人。その探究心はとても魅力的で、天然の草木による染めの可能性を、国内に限らず様々なコラボレーションで表現しています。

 

思いつくままに相談のご連絡をしたところ、金井さんがすぐに「月桃を試したい」と返してくれて、この試みが始まりました。

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月桃はショウガ科で、常緑の多年草。沖縄や奄美、九州の南に多く自生する植物です。月桃茶の存在は知っていたけれど、こんなに淡くかわいらしい色に染まるとは知りませんでした。スモーキーなライトピンク、とても好みです。

 

「月桃で染めるのは初めての試みです。以前から、島にある植物の中で色の出方をいろいろ試していて、月桃をもう少し探ってみたいと思っていたところに、ちょうどかずみさんから連絡が入った。お花のかずみさん、女性が身につけるもの、淡いピンクと聞いて、コンセプト的にも月桃がフィットすると思いました」

 

デトックスや再生を促すとも言われる月桃。薬草のように身体を整えたり、蒸留水や精油をスキンケアに使ったり。また、葉は食材を包む、蒸す、道具としても。種から葉、実まで、まるごと使い道がある、その土地に自生する植物は、まさに「seed」にぴったりです。

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金井さんは、工房の敷地内に自生する月桃を用いて、その茎の赤みで染めてくださいました。

 

「月桃は、染料としては色が出にくいほうだけど、今回は、その淡さを求めていたし、素材が染まりやすい薄く繊細な生地だったのも、ちょうどいいバランスでした。最初はもっと明るい、お花のような色をイメージしていたけど、かずみさんのリクエストは、肌のトーンに近いピンク。赤がほんのり乗っかっている感じ。僕にとっての”女性が着るピンク”とは違う発見がありました」

 

結果、このほのかなティントピンクに。「seed」にとって理想の色出しとなりました。

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「今回の月桃染めは、僕らにとっても試みになる、いいタイミングでした」

 

ワクワクすることを言ってくださった金井さん。「seed」は、さまざまな人とのつながりで種まきのような新しい試みを繰り返すプロジェクトです。ご一緒する方にとっても、このプロジェクトを通じて新しい扉を開けることになり、一歩を踏み出すようなことをしたいと思っていたので、金井さんの反応はとても嬉しいものです。

 

「自分が色で何を提示できるかを、いつも探しています。自分は、奄美の伝統産業の中にいる。その一方で、できるだけ俯瞰的なところに自分のポジションを置いておきたい。その土地で続いてきた伝統の根っこを大事にしつつも、いろんな人の視点からの解釈ができるように、と思っています。染めが接点をつくる。色を接点にして生まれるつながりが、面白いです」

 

伝統や過去の知恵を知ることは大事だし、楽しい。例えば藍染めは、染めることで生地を丈夫にし、虫除けにもなるので、昔は農作業の野良着にしていた、ということ。東南アジアでは、漢方で使われるような植物で染めることが多かったこと。衣は身を守るためにある。そこに知恵を載せて、着る。科学が発達する前から古の人々が実地で発見し、受け継いできた伝統は、今にも生きる知恵となります。

 

物事の根っこを知りながら、未来を見つめてどう生きるか。過去との往来が、新しい明日を生みます。金井さんと話していると、考えの違う人、新しい人とつながり、自らの持つ技を触媒にしてさらに変化し広がることの喜びを思います。


写真 金井志人(工房での写真)、村上未知(1枚目)

構成 森 祐子

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