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chisakiの帽子

ずっと気になっていた「chisaki」の帽子。昨年、共通の友人の紹介でデザイナーの苣木(ちさき)紀子さんと出会い、二人はあっという間に打ち解けました。今日は、今回「seed」と「chisaki」が一緒につくった帽子をお披露目するにあたり、いつだって思い切り楽しみながらも真剣な二人のお話をお届けします。

平井:「chisaki」の帽子は、すごくきれい。そして何より愛がある! 苣木さんからはいつも、とにかく素材が好き、という気持ちと、関わってつくっている方たちへのリスペクトが伝わってきます。それが品として現れているのでしょう。ものを生み出しているけれど、それが帽子というかたちにはなっているけれど、帽子をかぶることによって得られる高揚感を、つくっている人だと思うのです。一緒にいて気持ちがいいな、といつも思います。今回、「seed」で「chisaki」の帽子をお出ししたいと思ったのも、苣木さんに教えていただいた、ブンタールという素材の美しさに出会ったから。こんなにも美しいのに、もう新しく作ることができない素材だと聞いたから。今残っているのは、帽子材料商の老舗(それも日本でたった一軒残るだけ)が、大切に保管している帽体(帽子に成形する前の素材)のみ。ならば「seed」で、少しでも皆さんに、こんな美しい手仕事があることを伝えたい。この素晴らしいものの価値を共有したいと思いました。

―植物から、手作業で時間をかけて取り出した繊維を編むことで生まれたブンタールの帽子をつくりたい。そしてもうひとつ、折りたたんで持ち歩ける「散歩のお供にどこまでも」なペーパーコードの中折れ帽も。今回、その2つを苣木さんと一緒につくる「seed」の楽しい旅が始まりました。


固定概念が崩れる楽しさ


苣木さんは、「chisaki」を始めて5年、その前は企業デザイナーとして帽子ブランドで12年間、デザインと製作を続けてきました。

苣木: 20代後半の頃に、「自分にできること」がよくわからなくなっていた時期がありました。その頃、知人の紹介でベレー帽づくりを教わる機会があって。そのたった数時間の製作が楽しくて、帽子づくりに引き込まれました。その翌日から毎日毎日パターンを引いて、ひたすらベレー帽を作ってました。他の帽子の構造も知りたくて、市販の帽子を買って分解して研究しながら、つくって、友人に送ってかぶってもらう。そこまでがワンセットでとても楽しくて、没頭していました。ずっとやっていても飽きなくて。

平井:私も、花を仕事にする前から、リースやブーケをつくって友人に渡していました。時には持参した花をその場で生けさせてもらったりしました。
「自分ができること」にたどり着き、そして続けていく。自分の中の面白がり方を常に確かめながら、次の地点をいつも見つめているのが、苣木さんです。

苣木:私は帽子の専門的な学校などで学んでいないことも関係するのか、時に非常識、と言われることもありました。「折りたためます」と言って業界の方から「その素材を?どんなふうに?」と驚かれたり、霧吹きかけて手で揉んで、長年使ったような風合いを出したり。常識ではカッチリしたものが良いとされていた素材も、少し手を入れて崩すと抜け感が生まれて、日常に取り入れやすくなる。その人の日常に寄り添えるものを、素材の美しさを活かせる範囲で、今までになかったものをつくりたい、と思っています。

平井:そこは、常に実戦で花のことに取り組んできた私も、似ているかもしれません。今までの花生けとは違うかもしれないけれど、花を生けるのに、細かなルールにとらわれず、伸びやかな花は伸びやかに、首を垂れる花はそのように。どの花も、その花がありたいように、地面から生えていたときのようなありのままの姿を大事にしたいと思ってきました。人それぞれのやり方があって、私なりの方法があってもいいかな、と。

苣木:今から16、7年前でしょうか、「ペーパーブレードの帽子を折りたたんで持っていい」と言うと、「え?大丈夫なんですか?」と目を丸くする方も多かった。「ラビットファーのフェルト帽を手でぐしゃっと潰してかぶってください」なんて、「え?」と。けれど、「大丈夫ですよ、ほらこんな感じで。どうぞ!」と言ってきました。これまでに試行錯誤しながら、大丈夫なように作ってきましたので、大丈夫です。

平井:苣木さんの言葉には、説得力がある。やっていいの? って思うことでも、苣木さんに言われた通りにやってみると確かに素敵になる。美しく崩すこと、それこそがおしゃれだし、それを知れて楽しい。固定概念が崩れる驚きと喜びがありました。苣木さんと私が共通しているように感じるのは、その世界の常識とは違うかもしれないけれど、自分なりの発想を表に出すことを、怖いもの知らずでやってきたことなのかもしれない。誰かが辿った道、人に教えてもらった道を追うのとは違って、自分で腑に落ちるところで進むから。

苣木:そうですよね。そして、それがひとりよがりじゃなくて、「つくる人」、「売る人」、「かぶる人」、それに「未来」の4つにとって、よいものづくりであるようにしたいと思っているんです。(商いの)三方よしどころか、四方よし。ブランドのコンセプトでもある、「peace begins with a smile」。大げさかもしれませんが、帽子で笑顔を生んで、関わる方みんなを幸せにしたいと思っています。

平井:今回のお取り組みで、気づいたことがありました。教室では生花を扱う瞬間勝負のことが多くて、なかなか長いスパンでは見ない仕事です。けれど今回のお取り組みで、ものとして長く存在するということは、経年変化への着地点が大事なんだな、ということを、改めて苣木さんとのやり取りの中で感じました。

苣木:同じように時間を経たものでも、「育つ」なのか、「ボロになる」なのかで全然違う印象になります。できるだけ、経年変化によって育ち、愛着のわくものをつくりたいんです。そして、相棒となった帽子がその方のお守りのような存在になれたら、作り手としてこんなに幸せなことはありません。

平井:苣木さんの気持ちを載せた帽子。「seed」からお届けできる時が、今から楽しみです。


写真/村上未知
構成/森 祐子